1 はじめに
今回の動画では、自己破産における「予納金」について、次のような流れでご説明したいと思います。
◆ 予納金とは
・ 予納金ってそもそも何なの?
・ どういったものが予納金に含まれるの?
◆ 実際にいくらかかるの?(予納金の相場)
・ 同時廃止事件
・ 管財事件
・ 債権者申立事件
◆ いつまでに用意が必要?
◆ 予納金が支払えない場合の対処方法
・ 弁護士に依頼して積み立てていく
・ 裁判所に分納を相談する
・ (生活保護受給者のみ)法テラスを利用する
2 予納金とは
⑴ 予納金ってそもそも何なの?
自己破産の「予納金」とは、自己破産の手続を行ううえで、申立てをした人(申立人)が裁判所に対して予め支払う費用のことをいいます。
⑵ どういったものが予納金に含まれるの?
破産手続にはさまざまな費用がかかるのですが、予納金は、これらを支払うために充てられることになります。
具体的には、以下の費用がかかります。
・破産申立手数料(収入印紙)
…裁判所に納める手数料です。福岡の裁判所では、令和4年現在、個人破産の場合だと1500円、法人破産の場合は1000円です。
・官報公告費
…破産手続では、開始決定時と免責許可決定時の2回、官報に掲載されることになりますので、この掲載費用も予納金に含まれます。
・予納郵券(郵便切手)
…破産手続では、債権者への通知連絡のために郵券(郵便切手)を裁判所に納付しなければなりません。福岡の裁判所では、債権者の数にもよりますが、令和4年現在、個人破産の場合だと84円×債権者数分です。管財事件になった場合は、何円切手を何枚分、と細かな指定があります。
・引継予納金
…破産手続の遂行のために納める費用で、申立人から破産管財人へ引き継がれることになります。個人の自己破産において、最も高額な予納金が引継予納金です。
破産手続に破産管財人が選任された場合、その報酬は申立人が支払うことになるのですが、申し立てた後で「報酬を支払う余裕がありません」という事態になるのを避けるため、あらかじめ一定の金額を確保する趣旨で設けられた枠です。
引継予納金の金額は、福岡の裁判所では、令和4年現在、個人破産の場合だと少なくとも20万円かかります。
3 実際にいくらかかるの?(予納金の相場)
⑴ 同時廃止事件
同時廃止事件とは、破産事件のうち、破産手続の費用を支払う余力すらないと認められるときに、開始決定と同時に廃止決定となる事件です。破産管財人が選任されず、通常なら予定される換価・配当の手続もありません。
福岡の裁判所における自己破産の同時廃止事件の予納金は、次のとおりです。
・手数料 1500円
・官報公告費 1万1859円
・郵券 84円×債権者の数
⑵ 管財事件
管財事件とは、「破産管財人」と呼ばれる弁護士が裁判所から選任され、財産の調査・管理・処分、債権者への配当などを行い、そして免責調査を行う事件です。
福岡の裁判所における自己破産の管財事件の予納金は、次のとおりです。
・手数料 1500円
・官報公告費 1万5499円(1万1859円+追加3640円)
・郵券 500円×10枚、84円×(債権者数+10)枚、
10円×15枚、5円×14枚、2円×20枚
・引継予納金 20万円~(債権者数や事案によって増減もあり得る)
このように、予納金の額は、その事件が同時廃止事件か、管財事件かという振り分けによって大きく変わってくるのですが、この振り分け基準については、別途当事務所の記事・動画で取り扱っておりますので、ぜひご覧いただければと思います。
⑶ 債権者申立事件
債権者申立事件とは、債権者が債務者について破産手続を申し立てる事件です。
債務者が自ら破産を申し立てる場合と違い、債権者申立事件の場合は債務者ではなく債権者が予納金を支払うことになります。さらに、債務者の協力を得られにくく、困難を伴うことが多い分、予納金の額は通常よりも高くなる傾向があります。
もっとも、この場合の予納金も最終的には債務者が支払うべきだと考えられており、破産財団の中から債権者に優先的に返還されることになります(財団債権)。ただし、破産財団がない場合は返還されません。
福岡の裁判所における債権者申立事件の予納金は、次のとおりです。
・手数料 1500円
・官報公告費 1万5499円(1万1859円+追加3640円)
・郵券 500円×10枚、100円×4枚、84円×60枚、
10円×20枚、5円×10枚、2円×20枚、1円×10枚
・引継予納金 (個人)150万円 (法人)200万円
(債権者数や事案によって増減もあり得る)
4 いつまでに用意が必要?
⑴ いつまでに用意が必要?
これらの予納金の納付は、破産手続の開始要件となっています。
破産の申立てをすると、その後2週間~1ヶ月程で裁判所から管財事件になるか同時廃止事件になるかという見立てと、それに応じた予納金を支払うよう連絡があります。
予納金の支払期限は、特に決められているわけではありませんが、予納金を払わない限り自己破産手続きは開始されません。さらに、裁判所の指示に従わず予納金を支払わないままでいると、破産の申立てが却下されることもあります。
そのため、予納金は、裁判所から連絡があり次第、つまり申立てから2週間後までに貯めておき、裁判所から指示があり次第すぐに支払えるように準備しておくのがベストです。
⑵ 一括払いが原則
また予納金は、原則として、全額を一括して裁判所に納めなければならず、分割払いは基本的には認められていません。
ただし裁判所によっては、予納金の準備ができるまで一定期間は手続を保留にする運用をおこなっている場合もあります。
5 予納金が支払えない場合の対処方法
⑴ 弁護士に依頼して積み立てていく
自己破産の申立てを弁護士に依頼すると、弁護士から債権者へ受任通知を発送します。ものすごく簡単に言うと、これ以降は請求や返済が一時的に止まります。
その間に、債務状況を整理しながら、自己破産をスタートできる水準まで予納金を積み立てていくことになります。
債務を返済しながら同時に予納金を積み立てることに比べ、予納金の積み立てに集中できる点は、弁護士に依頼することの大きなメリットです。
⑵ 裁判所に分納を相談する
先ほど、予納金の支払は原則として一括です、とお伝えしましたが、生活状況や今後の積み立ての見通しなどを具体的に裁判所に伝えると、例外的に分納を認めてもらえる場合があります。
もっとも、認められても1~3ヶ月間程度で、あまりに長いと取り下げを促される可能性もあるので、ゆっくりはできません。
⑶ (生活保護受給者のみ)法テラスを利用する
破産申立てを弁護士に依頼する際、法テラスを利用すると、申立手続の弁護士費用を一時的に立て替えてもらうことができます。
さらに、生活保護受給者の方に限られますが、これまでお話してきた予納金についても、立て替えの対象となります。
6 おわりに
以上、今回の動画では、自己破産における予納金についてご説明しました。
また、当事務所は法テラス利用による破産申立ても多数お受けしておりますので、
ご不明な点等ございましたら、どうぞいつでもご連絡くださいませ。
著者紹介
昭和62年4月13日生
鹿児島県鹿児島市出身
福岡県弁護士会所属
―経歴―
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
―趣味―
音楽鑑賞・演奏,映画鑑賞,旅行,読書,囲碁