1 はじめに
今回の動画では、タイトルのとおり、「少額債務でも破産できるのか」という問いについて、破産法上の判断要素を紹介しながらお話したいと思います。
先に断っておくと、「具体的に借金が●●円以上であれば破産手続が可能です」という明確な基準は存在しません。人によってその基準が異なるからです。この動画では、その基準がどういうところにあるのか、破産法の考え方を紐解きながらお話したいと思います。
◆ 破産手続開始の要件 →2.
・破産法を見てみましょう
・支払不能って?(判断要素4つ)
◆ 少額債務でも破産はできる? →3.
2 破産手続開始の要件
⑴ 破産法を見てみましょう
(破産手続開始の決定)
第30条
第1項 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、破産手続開始の決定をする。
一 破産手続の費用の予納がないとき(第23条第1項前段の規定によりその費用を仮に国庫から支弁する場合を除く。)。
二 不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。
第2項 前項の決定は、その決定の時から、効力を生ずる。
(破産手続開始の原因)
第15条
第1項 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第30条第1項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
第2項 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。
このように、破産法は、債務者が「支払不能」にあることを、破産手続開始の要件としています。
ちなみに、法人破産の場合は、「支払不能」のほかに「債務超過」(債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態。)の場合も破産手続開始の対象としています。
それでは、支払不能とは何か、ということについて詳しく解説していきたいと思います。
(定義)
第2条
第11項 この法律において「支払不能」とは、債務者が、①支払能力を欠くために、②その債務のうち弁済期にあるものにつき、③一般的かつ④継続的に弁済することができない状態…(中略)…をいう。(〇番号は井上が記入)
長い文章ですが、これをちょっと切り分けて見てみると、大きく4つの判断要素に分けられます。
①支払能力を欠く
=財産/信用/労務による収入 のいずれによっても、債務を弁済することができない状態をいいます。
たとえば、債務を弁済するだけの資金(預貯金など)が不足していたとしても、債務者の信用や労力によって弁済のための資金調達が可能な場合は、支払能力を欠いているとは言えないことになります。
②弁済期にある債務を弁済できないこと
③一般的に弁済できないこと
=弁済できない債務が、債務者の債務の全部または大部分を占めていることをいいます。
たとえば、自己資金が50万円、借入れが50万円ずつ5件(債務総額250万円)ある場合、1社になら返せそうですが、他社の債務は弁済できないということになります。この場合も、一般的に弁済できないと言えると思います。
④継続的に弁済できないこと
→一時的・突発的な資金不足を除く趣旨です。
たとえば、今月は家計がマイナスのため支払えない債務が残ってしまったけれども、来月ボーナスが入れば利息ごと債務を支払える、というような状況であれば、「継続的に弁済できない」ということにはなりにくいのかなと思います。
3 少額債務でも破産はできる?
以上、一般論をご紹介した上で、最初の問いに立ち返ってみると、「具体的に借金が●●円以上であれば破産手続が可能です」という明確な基準が存在しないことが分かるかと思います。
結局、「少額」のレベル感が人によって違うのと同じように、破産手続の可否もケースバイケースです。
同じ100万円という借金でも、年収1000万円の人では支払不能に該当しづらく、ひいては自己破産が難しいでしょうし、年収100万円の人であれば支払不能に該当しそうで、ひいては自己破産できる可能性がありそうですよね。
もっと極端な例だと、10万円という借金を、会社員など継続的な収入のある人が抱えるのと、生活保護受給中の人が抱えるのとでもニュアンスが異なってきます。
生活保護で受給する保護費を使って借金を返すことは認められていないため、①“支払能力を欠く”という基準に該当することになります。②③も認められそうなので、あとは、④継続性の関係で、当面の間生活保護を受けていくことになるのか、あと1ヶ月後には就職・保護受給終了の予定があるのか、ということで異なってくるかと思います。
しかも、破産手続に進むかどうかは、最終的には管轄裁判所が決定することになりますので、そういった点でも「必ずこうなります」とは言いづらい、ということになります。
ちなみに、自己破産は難しいが、債務整理を希望するという場合は、「民事再生」「任意整理」といった他の方法を検討することになります。
4 おわりに
今回の動画では、少額債務でも破産はできるのか、という問題提起を軸に、破産法上の判断要素についてご説明いたしました。
当事務所では、債務整理のご相談も多く、依頼者の方1人1人に合わせて進行を検討しておりますので、どうぞご相談いただければと思います。
著者紹介
昭和62年4月13日生
鹿児島県鹿児島市出身
福岡県弁護士会所属
―経歴―
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
―趣味―
音楽鑑賞・演奏,映画鑑賞,旅行,読書,囲碁