受任通知の効果と留意点~破産・再生・任意整理

1 はじめに

 今回の動画では、破産・民事再生・任意整理等(以下まとめて「債務整理」と呼びます。)を検討している・既に弁護士に依頼している方に向けて、債務整理で発送される「受任通知」の効果と留意点についてお話したいと思います。

 

 ◆ 受任通知とは →2.

  ・受任通知って?

  ・具体的な内容は?

 

 ◆ 受任通知の効果 →3.

  ・受任通知が送られると、どうなるの?

  ・受任通知でも止められないこと

 

 ◆ 受任通知を送る際の、債務者の留意点(4つ) →4.

 

2 受任通知とは

⑴ 受任通知って?

 債務整理における受任通知とは、弁護士が、依頼者(債務者)の代理人として、これから債務整理を行います、という旨を各債権者に知らせるものです。

⑵ 具体的な内容は?

 受任通知には、上記のとおり債務整理を開始します、という内容のほかに、各債権者に対し、

 ・債務者への直接の連絡・取立てを止めるよう求める

 ・仮に取り立てられても、債務者としては返済できないこと

 ・今後の連絡は、本人ではなく、弁護士にしてほしいこと

 ・債務の調査に必要な資料(取引履歴)の開示を求める

 ・この通知を送ったからといって時効中断時効更新には当たらないこと

という内容も盛り込むのが一般的です。

 

3 受任通知の効果

⑴ 受任通知が送られると、どうなるの?

 債権者の中でも、貸金業者は、この受任通知が届くと、届いた時点から債務整理が終わるまで(または弁護士が承諾し、もしくは辞任するまで)の間、債務者に対する直接の取り立てが禁止され、返済も止まることになります。

 これは貸金業法で定められている「法律上の効果」ということになります。

 しかも、これに違反すると、2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金又はこれを併科(貸金業法47条の3第1項3号)を受けることになります。

<貸金業法>

第21条(取立て行為の規制)

第1項 貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は、貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たつて、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない

 ⑨ 債務者等が、貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり、弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があつた場合において、正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。

⑵ 受任通知でも止められないこと

 ① 貸金業者以外の一般債権者

 上記のとおり、受任通知に法律上の効果が生じるのは、貸金業者やサービサー(債権回収会社)等の限りです。

 そのため、貸金業者等ではない一般債権者に対しては効果がありません。

 もっとも、そのような一般債権者に対しても、「今後は弁護士が連絡窓口となります」「債務調査に必要な資料を開示してください」という受任通知そのものは送付するのが通常ですし、一般債権者の側も、受任通知を受け取ると、ほとんどの場合は取立てをストップしてくれます。

 

 ② 直接の取立て以外の行為

 上記のとおり、受任通知が届いた際に禁じられるのは、電話・訪問等の方法により、直接債務者に取り立てる行為です。

 そのため、裁判上の手続(訴訟、差押え等)をとることは禁止されていません。

 

4 受任通知を送る際の、債務者の留意点(4つ)

① 債務整理に向けた準備をきちんと進めていくこと

 以上のとおり、債務整理における「受任通知」というものは、本来支払われるべき債権を強制的にストップさせるという、強力な効果を持ちます。

 ただ、債権者のこれらの対応や協力は、あくまでこれから行われる債務整理手続を前提として初めて成り立つものだということを忘れてはいけません。

 債務側からみると、月々の電話、訪問による取立てがパッタリと止まるため、ホッとされることだろうと思いますが、これはゴールではなく、スタートにすぎません。

 まれに、債務整理を依頼されて、受任通知を出し、さあ債務整理を進めましょうという段階で、現状に安心してしまって弁護士とも連絡が取れなくなるという方がいらっしゃいますが、弁護士としては、こうなってしまうと、債権者に辞任通知を出さざるをえません。結局、取立てが再開してしまうことになりますので、十分にご注意ください。

 

② 債権者へ返済していた分を、積み立てておくこと

 また、債権者からの取り立てがストップし、ひとまず支払わなくてよくなった返済資金は、いずれ弁護士費用・裁判所の予納金等に充てていくことになりますので、必ず積み立てておくようにしてください。

 そのようにお知らせしたにも関わらず、いざ破産手続を申し立てようとしたときに予納金が納められず、手続が遅延したり門前払いを受けたりするケースも過去ありました。

 

③ 新たな借入れ・特定の債権者への優先弁済の禁止

 さらに、受任通知発送後は、債務者の側も、原則として新たな借入れ(クレジットカード利用も含む。)を行ってはいけませんし、逆に特定の債権者にだけ優先して弁済することも禁止されます。

 これらを行ってしまうと、破産の場合は免責不許可事由に当たる危険性があり、また任意整理の場合は交渉が難航することになります。

 

④ デメリットもあること

 また、いくら債権の取立てから一時解放されるとはいえ、受任通知を出すことは、債務者側にもそれなりのデメリットがあるので、そのことを知っておいてください。

 たとえば、

 ・ブラックリストに載る可能性が高いこと

 ・保証人がいる場合は、そちらへ請求される可能性があること

などが考えられます。

 

 さらに、債権者の中に金融機関があり、その金融機関に預金口座を持っている場合は、その口座が凍結され、借入金と口座残高とが相殺されることもあります。

 特に、その口座の中にお給料が入ってきたり、逆にその口座から家賃や光熱費が引き落とされている場合は要注意です。必ず事前に、弁護士に事情を伝えて、対応するようにしましょう。

 

6 おわりに

 以上、今回の動画では、「受任通知」の効果と留意点についてご説明いたしました。

 債務整理の手続は、弁護士と依頼者の情報共有・連携がカギを握るケースが多いように思います。

 債務整理にあたり、少しでも気になる事があれば、必ずすぐに弁護士に共有するようにしてください。弁護士としても、事前にお聞きできていれば、しかもそれが早ければ早いほど、債務の免責・軽減という第1目標に向けて取れる選択肢の幅も広がります。

 

 当事務所では、債務整理のご相談も多く、依頼者の方1人1人に合わせて進行を検討しておりますので、どうぞご相談いただければと思います。

 

著者紹介

昭和62年4月13日生
鹿児島県鹿児島市出身
福岡県弁護士会所属

経歴
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
趣味
音楽鑑賞・演奏,映画鑑賞,旅行,読書,囲碁