自己破産でよくある誤解と、本当のところ

1 はじめに

 今回の動画では、自己破産でよくある誤解と本当のところ、というテーマでお話をしたいと思います。

 多くの方にとって自己破産は「最後の手段」というイメージが強いのかなと思いますが、よく法律相談をお受けする中で、そのイメージの裏には誤解が含まれていることも多いように感じています。

 今日はその誤解を解消し、本当のところをお伝えした上で、「自己破産って思ったよりも利用しやすいものなんだな」といったイメージを持っていただけたらと思っています。

2 これって本当?自己破産の本当のところ

⑴ 自己破産するとすべての財産を失う?

 まず一つ目の誤解として、「自己破産するとすべての財産を失ってしまう」というものです。たしかに、自己破産の際には、不動産など一定の財産が処分の対象となります。しかし、生活に最低限必要な財産、例えば衣服や家財道具、生活資金(管轄裁判所にもよりますが、99万円以下の現金)などは処分の対象にはなりません。

⑵ 自己破産すると一生クレジットカードを持てなくなる?

 次に、「自己破産すると一生クレジットカードを持てなくなるんですか?」という質問を受けることもありますが、これも一部誤解です。

 自己破産をすると、その情報が信用情報機関に登録されるため(いわゆるブラックリスト)、たしかにしばらくの間はクレジットカードの新規発行やローンの利用が難しくなります。

 もっとも、この信用情報は約5年~10年ほどで消去されると言われています。消去されて以降は、再びカードを持ったり、ローンが組めるようになります。

 ただし、2度目の自己破産は、そもそも認められなかったり、認められても破産管財人が選任される可能性が高く、厳しいチェックを受けるため、ハードルが高いです。そのため、再度カードを持てたからといっても、その利用は慎重にされた方がよいでしょう。

⑶ 自己破産すると仕事に影響が出る?職場に伝わる?

 また、「自己破産すると仕事に影響が出るのではないか」「職場に伝わらないか」と心配されるご相談者さんも少なくありません。

 ですが、一部の職種(金融機関や保険募集人の方、警備員、弁護士など)を除き、仕事そのものへの影響は、直接的にはありません。公務員や一般企業で雇用されている方には、破産による法的な制限はなく、自己破産を理由に解雇されることも違法です。

 また、自己破産をしていることが、職場に伝わる可能性もほとんどありません。自己破産をすると、官報という国の機関紙に名前が掲載されるのですが、一般の方でこれを毎号購読している方を見たことはありません。むしろ、債務を抱え、放置してしまった先に、給与差押を受けてしまったりすると、それは職場に伝わってしまいます。

 自己破産することで仕事に影響が出るとすれば、打合せや面談のために、平日に時間を取って頂く必要があるとか、給与・退職金の分かる資料を取って頂く必要がある、くらいかなと思います。

 

⑷ 家族に迷惑がかかる?

 最後に、「自己破産は家族に迷惑がかかる」という誤解です。自己破産はあくまで個人の手続であり、親族や配偶者には基本的には影響が及びません。家族名義の口座や資産に影響が直接及ぶこともありません。

 ただし、ご家族が債務の保証人になっている場合は別で、債務者が破産したときは保証人に請求が行くこともあります。

 

 なお、少し話がそれますが、「自己破産することを家族に伝えるべきか」「家族に自己破産することを伝えたくないが、よいか」という相談を受けることもあります。この点について、個人的な意見としては、同居されているご家族、たとえばご両親や、配偶者がいらっしゃれば、その方には伝えた方が良いのではないかと思っています。というのも、破産手続において、ご自身の借金問題と向き合うことは、手続的にも精神的にもそれなりの負担感があるため、側で理解してくれているご家族の存在は、それだけで大きな支えになるからです。また、今後の家計管理を監督する役割を果たしてくれる場合もあります。そのため、同居されているご家族には、お伝えになることを、個人的にはお勧めいたします。

3 おわりに

以上、自己破産に関するよくある誤解についてお話ししました。

不安や誤解があると必要以上に恐れてしまうものですが、誤解やそこから生まれる誤ったイメージを払拭していただくことで、最適な選択ができるようになるのかなと思います。

 

自己破産は誰もが望むものではありませんが、生活を再建するための一つの方法であることを理解していただければと思います。

 

弁護士は、ご相談に来られた方に、色々お話を伺った上で、破産手続をおすすめすることがあります。これを聞いて、破産は最終手段、終わりだというイメージでショックを受けられる方もいらっしゃるのですが、そうではなく、人生の再生へのスタートだと捉えていただければと思っています。

 

著者紹介

井上瑛子 弁護士

おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了

福岡県弁護士会所属